<植物の概説>
セントジョーンズワート、和名はセイヨウオトギリソウ。
ヨーロッパや中央アジアに分布する直立性の多年草で、葉や黄色の花には斑点があり、指でこすると赤い液がしみ出てきます。ヨーロッパではこの赤い液が血のような色をしているため、魔よけに使ったり、心の闇を照らし悪霊を追い出す「サンシャインハーブ」として不眠症やウツ病・ヒステリーなどの治療に用いたりしていました。
<伝承例>
地上部全体が刈られ、乾燥させられ、ハーブティーとして用いられます。そのハーブティーは若干苦いものの、嗜好品として、またその薬理的性質のため長い間愛好されてきました。
医療的利用の最初の記録は古代ギリシアにまでさかのぼり、以来利用されてきています。 また、ネイティブアメリカンも、人工妊娠中絶薬・抗炎症剤・収斂剤・消毒剤として使用してきました。
<効果・効能>
神経系の回復強壮剤ともいえるハーブで、落ち込んだ気分や不安・イライラを軽くし、精神を高揚させてくれる効果があります。有効成分のペルフォリンが脳内セロトニンの濃度を増加させることで抗ウツに働いています。
<適応症>
切り傷・やけど・神経痛・抑うつ状態・社会不安障害(SAD)など。
<含有成分>
1980年代になって、このハーブのエキスに抗鬱作用があることが報告され、大きな脚光を浴びることとなりました。ドイツでの研究では抗鬱剤のベストセラー「プロザック」とほぼ同等の作用があるともされており、さらに不眠などの副作用も少ないことからドイツでは精神科医でもごく普通に処方されるようになってきているとのことです。アメリカでもTV番組で紹介されてから爆発的に売り上げが伸びたとのことで、このあたりの事情は日本と同じことのようです。
この薬草の有効成分はハイペリシンで、ちょっと天然物と思えないような8環性の珍しい骨格を持ちます。この化合物が鬱病に効果があるのは、「モノアミン酸化酵素(MAO)」という脳内の酵素の働きをブロックする性質によります。MAOはセロトニンなどの脳内物質の分解(代謝)に関わっており、この働きを調整することによって脳内物質のバランスを整えるものと考えられています。これは化学合成の抗鬱剤と同じ原理です。
また、同じ草に含まれるハイパーフォリンにも脳内物質調整作用があるという報告もあり、セイヨウオトギリソウの作用はあるいは両者の相乗効果によるものかもしれません。自然というものはやはりよくできているものだ、と思わされます。
<使用方法>
薬用範囲が広く、中世には深い刀傷の治療に用いられ(殺菌作用がある)、植物油の中に花を入れて成分抽出したオイルは外用薬として神経痛に効果があり、座骨神経痛の痛みを和らげる作用もあります。またこのオイルは皮膚の体温を下げるのでヤケドにも効き、さらに空腹時に少量服用すれば、胃炎や胃潰瘍の治療薬になるといわれています。
利尿作用もあり、体内から老廃物を排出するのを助け、この浸出液は痛風や関節炎の治療によく、夜尿症の治療にも用いられます。その場合、オイルを脊椎の底部によくすり込みます。
この植物は主として神経の鎮静薬、更年期の抑うつ状態の治療薬として、さらに気管支炎の際の去痰薬として使われています。
<禁忌>
セントジョーンズワート(SJW)という植物を含み、「ストレスが解消する」「気分がすっきりする」などとして市販されている健康食品が、経口避妊薬(ピル)など一部の医薬品の効き目を落とすおそれがあるとして、厚生労働省は先年、これらの医薬品の添付文書に「SJW含有食品と併用しない」と明記するよう製薬会社に改訂を指示しました。食品の関係業者に対しては、SJWを含有することや、医薬品との併用を避ける注意書きを製品に明示するよう指導しています。
同省によると、対象となる医薬品は、国内で使われているすべてのピルのほか、抗HIV(エイズウイルス)薬・免疫抑制薬・心臓病治療薬・気管支拡張薬など8つの薬効の計28成分です。
SJWによって、これらの薬物を代謝する特定の酵素が体内に増え、有効成分の血中濃度が下がるため、本来の効果が得られなくなるといいます。国内ではこれまでに、同食品と医薬品との相互作用による健康被害は報告されていません。
SJWは主に欧州から中央アジアにかけて分布している植物で、和名はセイヨウオトギリソウ。欧米では抽出成分を錠剤にした製品が広く流通しています。