第7の栄養素として注目のフィトケミカル~神奈川県立保健福祉大学学長中村丁次先生のお話

ビタミンミネラル・食物繊維から、第7の栄養素として注目のフィトケミカルまで色とりどりの野菜で、野菜のパワーを最大限に!
七色野菜でバランス良く!

~神奈川県立保健福祉大学学長中村丁次先生のお話~

中村丁次先生は、聖マリアンナ医科大学病院内に、日本初の本格的な栄養外来「院内栄養相談室」を開設され、幻年問、医療現場で食と栄養による病気の予防と治療にあたられてきました。
臨床栄養指導と食事療法を実践される中で、毎朝病院で痛感されていたことは、朝から病院の待合室で診察を待つ人の長蛇の列。その多くは中高年世代で、とりわけ糖尿病や高血圧などの生活習慣病で病院を訪れる患者さんの多さには驚かれたと言われます。
中村先生は著書『食べかた上手』の前書きで「リタイア後の長い年月を半病人として暮らすか、最後までピンピン暮らして現役のままコ口リと死ぬか。生活習慣、とりわけ毎日の食事のとりかたしだいで決まる」、「正しい食事の習慣はどんな医療保険よりも確実にあなたの人生を守ってくれます」このことを声を大にして叫びたいと述べられています。
2003年からは神奈川県立保健福祉大学に転任、管理栄養士の教育等を通して国民の生活習慣病の予防と健康増進をはかる職務に専心、2年前からは学長の重責に
就かれていますが、臨床の現場を通して得られた「普段の食事の改善こそ体調不良を治す一番のクスリ」という確信に揺るぎはありません。
中村先生に、アンチエイジングや生活習慣病予防に今最も注目されている野菜の成分「フィトケミカル」を中心に、野菜の有効成分と効果的な摂り方など、野菜のパワーを最大限に発揮するお話をしていただきました。

第7の栄養素として注目のフィトケミカル
生命維持の栄養学が解決し、新たに注目されるようになったアンチエイジング成分

~まずフィトケミカルなどの機能性成分は、栄養素なのかというところからお願いします。
中村:栄養学は同世紀後半、フランスのラヴォアジエが「人間は食べものをエネルギーにして生きている」、つまり、食物と人間のエネルギー代謝の概念をつくったのが始まりです。
その後、ドイツで「食べものからエネルギーを得ているとしたらその源は何か」という研究が始まり、炭水化物(糖質)、脂質(脂肪酸)、蛋白質(アミノ酸)の三
大栄養素が発見され、さらに、ビタミン、ミネラルといった身体の調子を整える栄養素が発見されて五大栄養素となりました。
栄養素のポイントの一つは、「栄養学」は生命の元を求めた学問であり、「栄養素」は食べものの中に見出された命の元となる成分すなわち、その成分をとらないと特有の欠乏症を起こし、最終的には死ぬというものです。
ところが近年、食べものの中には栄養素の他にも、抗酸化作用をはじめ、血糖の抑制作用だとか、血圧の降下作用とか、免疫能向上作用等々、これまで栄養学が
栄養素として検討しなかったいろいろな機能作用や生理活性を持つ成分が見つかったことで、それらの位置づけを問われるようになりました。
例えば、カテキンやポリフェノールなどの健康効果、がいろいろ明らかになっています。カテキンやポリフェノールをとらなかったために欠乏症を起こして、最後は死に至ったという人はいません。そこが、生命の元と定義されている栄養素とは大きく違うところです。
フィトケミカルなどの機能成分は栄養素か、そうでないのか、という答えを出す上では、栄養学という学問の領域をどこまで広げるかなどいろいろな意見があります。栄養学の中に入れて食品の機能としての研究方法を構築すれば良いのではないかとも考えられます。
フィトケミカルが注目され始めたのは1980~90年代頃からで、生命を維持するための栄養学が解決し、今度はアンチエイジング、すなわち長く、若々しく、美しく生きるための研究が求められるようになったわけです。
植物の中に存在する天然の化学物質「フィトケミカル」(植物化合物)は、植物自身が紫外線や虫、細菌などから身を守るために備えている防御物質です。植物全体に分布していますが、ほとんどが色素や香り、アク、渋み、苦みなどに多
く含まれています。現在1000種類ほどが確認され、おそらく1万種はあるといわれています。
「植物性生理活性物質」とも呼ばれ、その最大の作用は、老化や万病の元といわれる活性酸素を除去し、アンチエイジングゃがんをはじめ多くの生活習慣病予防に期待される強い抗酸化作用です。私たちの体内にも、活性酸素を除去する抗酸化物質が備えられていますが、人間があまりに長寿になったことや、環境汚染やストレスなどの外的要因が多すぎるために、体内の防御物質だけでは不足し、そこで、野菜などのフィトケミカルが注目されているわけです。

7色野菜でバランスよく!多種多様にとる重要性~皮も一緒に丸ごと~

中村:野菜の最も優れた点は、各種のビタミン、ミネラル、食物繊維、フィトケミカルが豊富に含まれ、それらの補給によって病気にならない体守つくりができることにあります。三度三度の食事で、野菜は必ずとりたいものです。
野菜を毎日、十分量とることにより、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素や抗酸化物質が体内で働き、代謝が活性化され、蛋白質など他の栄養素の吸収も良くなり、免疫力も高まって、老化やがんなどの予防に働いてくれると期待されるわけです。
私たちは栄養素を単独でとっているわけではなく、栄養素を含む食品、例えば蛋白質なら蛋白質を多く含む肉や魚、大豆食品を食べているわけです。
機能成分にしても、がん予防や動脈硬化予防に働く成分を見つけたとしても、実際には食べものからその成分だけが利用されるのではなく、食物全体の成分が複雑にからみ合って作用しています。
大根にしても人参にしても、食物自体に複合的な成分が含まれ、さらに料理で組み合わせていくと、献立全体では非常に多くの種類の成分が含まれるようになります。これらの成分が複合的に作用し、結果的に我々の健康に貢献したり、あるいは害を及ぼしたりしているわけです。
一つの成分がそのまま反映されるほど体は単純ではなく、野菜に限らず、効果にこだわりすぎたりして、健康のための偏食にならないようにいろいろな食べもの
からいろいろな成分をバランスよくとることは非常に大事です。
抗酸化成分にしても、例えば、ビタミンCとビタミンEの作用も違い、それぞれ助け合ったり桔抗し合ったりしながら、総合的に見ると助け合っているという面があります。
ですから、これだけをとれば健康効果があると、ある抽出成分のみを偏ってとれば、高濃度に作用した弊害が起きたり、相互作用が起こらなくなって思ったほど効果が上がらなかったり、かえって害作用をもたらすことにもなります。
また、例えば本態性高血圧でも塩分の影響がほとんどない体質もあり、酸化に強い体質、弱い体質もあると思います。
どういう体質を持っているか、どういう遺伝情報を持っているかは、家族の病歴などで経験的に判断できても、本当に遺伝子がそういう体質を持っているのかは、将来的にはゲノム解析でその人の遺伝子に合った食事改善ができるようになるかと思いますが、今のところはわからないわけです。
ですから、今のところは、例えば野菜ならいろいろな色をとっていれば、その分自分に効果のある成分がとれる確率が高くなるわけです。
野菜や果物はフィトケミカルの色素成分に着目して、赤、橙、黄、緑、紫、黒、白の7色でとらえて7色そろえば、ビタミン、ミネラルも、フィトケミカルも自然とバランスよくとれます。
例えば、肉じゃがなら、ジャガイモ(黒)、タマネギ(黄)、ニンジン(橙)で3色、キヌサヤ(緑)を加えれば4色、具沢山味噌汁なら、根菜、葉菜、キノコとさらにいろいろな成分が一緒にとれます。
「毎日7色」と気負わず、昨日食べなかった色を今日は選ぼうという考えで、1週間単位で考えると無理なくとれるでしょう。
ポリフェノールのような抗酸化物質は植物の色素や味の成分で、ほとんどの野菜や果物に含まれていますから、普段の食事で野菜や果物を十分にとっていれば不足はありません。
さらに、野菜に含まれるビタミンやミネラルの量は昔に比べて少なくなっている上に、フィトケミカルなどは皮の部分に多く含まれていますから、野菜や果物はよく洗って丸ごと食べるのが理想です。
和食の良さは、糖質のご飯を中心に、蛋白質食品中心の主菜、野菜中心の副食、それに味噌汁という献立で、三大栄養素からビタミンやミネラルの微量栄養素、食物繊維やフィトケミカルがバランス良くとれることです。
野菜を彩り(色取り)よく食べるのは、見た目の美しさ、食の楽しさにもつながります。人が食べものから栄養素を消化吸収するためには、「おいしい」という感覚が重要です。おいしいと感じないと、体は消化のための準備をしてくれません。おいしいという感覚は、食卓を囲んで楽しい、しあわせという感覚にも左右されます。
家族みんなでわいわい食事をすれば、子どもには良い食習慣がつきますし、お年寄りは食欲が高まってしっかり栄養がとれるようになり、元気に長生きができるでしょう。

色別 フィトケミカル 期待される効果・効能 効率よい摂取 多い野菜・果物
赤系 リコピン 抗酸化作用、がん予防(前立腺がん)、動脈硬化予防、紫外線対策、アレルギー対策 生野菜より調理野菜。脂肪と一緒にとると吸収力アップ。※熱に対して安定している。脂溶性 トマト、すいか、金時人参、グレープフルーツ(紅肉種)、柿など
カプサンチン 抗酸化作用、がん予防、動脈硬化予防、善玉コレステロール増加 生野菜より調理野菜。脂肪と一緒にとると吸収力UP。※水に溶けず、熱に強い。アルコールに溶けやすい。 パプリカ、赤ピーマン、とうがらしなど
橙系 プロビタミンA ビタミンAとしての機能、抗酸化作用、がん予防(口腔・喉頭・喉頭がん・食道がん、胃がん)コレステロール調整 生野菜より調理野菜。脂肪と一緒にとると吸収力アップ。※熱に強く油との相性がいい。脂溶性 かぼちゃ、にんじん、みかん、ほうれん草など
ゼアキサンチン 抗酸化作用、加齢によろう視力低下予防、がん予防(乳がん) 生野菜より調理野菜。脂肪と一緒にとると吸収力アップ。※熱に強く油との相性がいい。脂溶性 パパイヤ、マンゴー、ケール、ブロッコリー、ほうれん草など
黄系 フラボノイド 抗酸化作用、高血圧予防、ビタミンCの吸収促進、アレルギー対策、血管壁強化、前立腺炎の緩和 ビタミンCと一緒にとるとよい。
※熱に強い。水溶性
玉葱、ほうれん草、ケール、パセリ、レモン、柑橘類など
ルテイン

抗酸化作用、加齢による視力低下予防、がん予防(乳がん、直腸がん

食材にあった調理法が考えられる
※熱に強く、油との相性がいい。不水溶性。
とうもろこし、ほうれん草、ブロッコリー、ゴールドキウイ、菊の花、かぼちゃなど
緑系 クロロフィル 抗酸化作用、がん予防、コレステロール調整、消臭・殺菌効果(外用) 野菜の5倍以上の沸騰した湯で、短時間加熱後、冷水で短時間冷却し、クロロフィルの変化をとめる。
※熱・酸の組み合わせに弱い。脂溶性。
ほうれん草、モロヘイヤ、あしたば、緑ピーマン、にら、パセリなど緑野菜
紫系 アントシアニン 抗酸化作用、加齢による視力低下、高血圧予防、肝機能の保護 ジュースや果実酢、煮物など水溶性を生かした調理方法や生食向き。
※熱に弱く水溶性だが、野菜によっては、高温で蒸す、揚げる、炒めるなどの短時間調理により退色を防げるものもある
なす、紫いも、紫人参、紫キャベツ、トレビス、べりー類、赤紫蘇、黒豆など
黒系 クロロゲン酸 抗酸化作用、がん予防、血圧調整、血統調整、ダイエット効果 あく抜きをしない、または短時間にする
※熱に弱く、水溶性。
ごぼう、ヤーコン、じゃがいも、バナナ、なす、なしなど
カテキン 抗酸化作用、がん予防、コレステロール調整、ダイエット効果 茶葉をそのまま食べる。粉茶や抹茶にして調理に使う。
※水溶性
緑茶、柿、ワインなど
白系 イソチオシアネート 抗酸化作用、がん予防、ピロリ菌対策、血液さらさら効果、コレステロール調整 加熱調理より生食
※よく咀嚼する。千切り、すりおろしなど。
キャベツ、大根、わさび、ブロッコリー、菜花などアブラナ科の野菜
硫化アリル がん予防(胃がん・大腸がん)、抗菌効果(以上、生食の場合)抗酸化作用、ビタミンB1の吸収促進、高血圧予防、血液さらさら効果など 生食、加熱調理によって効果が異なる。
※水溶性
※一度に大量に摂取すると、貧血・遺産を刺激して炎症を起こすことがあるので過剰摂取は控える。
ねぎ、玉葱、にら、にんにくなど

健康ニュース 短信

平均寿命1位の長野県は野菜摂取量も1位

男女とも長寿日本一となった長野県、長野県健康長寿課長の小林良清医師は「がんや心疾患の死亡率が低いため」と説明。低さを支えているのが、生活に根付いた予防運動。「減塩運動」から始まり、今では肥満者や喫煙者の割合も低く、野菜摂取量は全国1位。
野菜摂取量が多いのは「お焼き、ぶっ込みうどん、とうじそば、蒸かし茄子、味噌汁など野菜を多く使う食文化のお陰」と松本大学大学院の鹿田直子教授。野菜を多くすることで汁が少なくすみ、蒸すと油の使用も抑えられるとのこと。

「ごま化し」と「ごますり」でごまを毎日少しづつ

ごまにはゴマリグナンという抗酸化物質が豊富。抗酸化作用で老化防止に期待され、人の摂取でも脂質酸化抑制が明らかになっている。
ゴマは油も酸化しにくく、揚げものの劣化を防ぐ。大豆油、菜種油では60度で20日間保存すると酸化で重さが6%増えるが、ゴマ油は50日過ぎても同じ重さという。
食べる都度、妙ってすると吸収も香りもよくなる。料理に一ふりしたり、油を1滴垂らしてとると、健康にもよいし、料理もおいしくなる。

(※新しい時代の健康を考えるコミュニケーション紙 けんこう325より抜粋)

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